「大量消費とマスメディア」をテーマに「アンダーグラウンドとセレブリティ」を行き来した20世紀の表現者ウォーホル 『アンディ・ウォーホル 永遠の15分』展。圧巻の展覧会。アーティストとして多面的に活躍し、時代の激しい潮流のなかで伝説を重ねていった作品群を複合的に展示。花のシリーズ、モンローシリーズなどの有名な作品はもちろんだが今回の回顧展は、彼の多面的な側面を見事に展示されている。50年代のコクトー、ベン・シャーンを彷彿させる線画から、彼らしい華やかな色彩を用いて商業デザイン・イラストレイターとしての成功。60年代初旬、画家として転身後、広告を引用した作品からキャンベルスープ。主なる手法となったシルクスクリーンを使い雑誌等からヒントを得た題材をそのままプリント。死のシリーズからマリリン・モンロー、エルヴィス・プレスリー、エレザベス・テーラーといったスターシリーズ。マスイメージの「引用と反復」こそが、アンディ・ウォホールの創造の基点になる。60年代半ばからは彼の「ファクトリー」時代。ここで、作品を生み、多くの伝説が生み出されていく。ルーリードやニコ、ジョン・ケイルのベルベット・アンダーグラウンドのプロデュース。イーディー・セジウィックやのちに商業映画も一緒に製作するポール・モリッシーなどとも親交。映画製作もこの頃からスタートし、彼の周りに集まる、スーパースターと呼ばれた様々な人種達を出演者に仕立てて、作品をつくりだす。アンダーグラウンドの帝王として有名なり「ピカソ、ダリそしてウォーホール」等と言われる知名度をあげた。68年、彼の映画にも出演した事があるヴァレリー・ソラナスに狙撃される。以降徐々に、作品はつくりつつも、ビジネス的な視野に方向転換。69年、著名な雑誌になった「インタビュー」を創刊。70年代はビジネスアートの時代。パーティーの時代のはじまりだ。この時期は、多くのパーティやナイトクラブにも頻繁に顔を出し、特にのちに、多くのデザイナーホテルを仕掛けたイアン・シュレッガーのスタジオ54では多くのセレブリティとの交流が写真に収められている。彼自身は、そこで知り合った多くの著名人から依頼を受けては肖像画を制作した。『アンディ・ウォホールTV』や商業映画の『悪魔のはらわた』『処女の生き血』等のプロデュース。自分自身はモデルエージェンシーに所属し、日本でTDKのコマーシャル等にも出演。ウォーホル自身がよりブランド化されていった。70年代後半からの絵画作品は、自由奔放に変化し、バスキアとの共同作業の作品以降、尿によって腐食させた作品や、ロールシャッハの作品、人体図の作品、最後の晩餐や十字架をテーマにした作品等様々に急激に変化していった。作品展は世界中からオファーがくることとになる。87年、突然の急死。死の数日前にもマイルス・デイビスともに日本人デザイナー、アーストンボラージュ佐藤孝信のファッションショーにも出演している。今回の展覧会。これらの、各時代ごとの作品、生き方が非常に明瞭にわかる展示だ。絵画作品はもちろんだがメッセージ、映像、写真、ファクトリーの再現ブースや60年代の個展をそのまま再現等。彼の変容する価値観を具体的に簡潔に見せてくれている。年代で分かれた展示スペースと別に設けられていた2つのテーマスペース。ひとつは、タイムカプセルと名付けられた彼の収集癖からの、600個の段ボールから選ばれた私物の展示。そしてもうひとつが、巨大スクリーンで映し出される映像のコーナーだ。同時に、四方の壁を映し出される映像コーナーだが特に興味を引いたのが、当時ファクトリーに訪れた人数百人ぐらいの人が撮られたという「スクリーンテスト」という作品だ。キャンベルスープが並ぶように9人の肖像が9面並び上映。2分45秒間ずつ撮影されている。出演者は、マルセル・デュシャン、サルバドール・ダリ、ボブ・デュラン、スーザン・ソンタグ、イーディー、ニコ、ジョナス・メカス、日本からは仲谷昇、岸田今日子など。題材が人間だけに何もしていなくてもおのおのの内面性や個性が表面にでてしまう。視点が面白い。ウォーホルは、デザインからアート。写真、映画、音楽そして、ビジネス。これらをリアルに自分自身ブランド化させつつ成功した。アンダーグラウンドとセレブリティ。一見、相反する価値観も彼の手にかかると同一線上に並んでしまう。もちろん、20世紀の多くの著名アーティストは広報やマネージャーをもち、もしくは自らを会社経営している。その中で、彼が抜きん出た理由はもともとあった才能とたぐいまれなセルフプロデュース能力にあった。1、アーティストの感性でテーマを選択し、俯瞰しつつ、一般にもわかりやすい作品化。2、自ら話題を提供する発信性。「パーティピープルであったり、ショーに出演」3、インディペンデントであるべき前衛性 「映画」商業映画さえもカルト。4、自分自身のメディアを確立 「インタビュー」「アンディウォーホルTV」5、発注肖像画等の割り切ったビジネス感覚世に出たきっかけとなり、表現したテーマ「大量消費とマスメディア」はそのまま20世紀後半のアメリカの目指した象徴でもある。21世紀。芸術家はどのようなテーマで、創造し表現していくのであろうか?少なくても、流行のように価値観さえ漂流している時代。表現者として生きる事の困難さをより考えさせられる展覧会であった。 角 章映画ファンにも、是非おすすめの展覧会。私もウォーホルに関しては、昔、日経トレンディのNY特集特別号に14、5枚程の原稿を書いた事を思い出し、今日の展覧会の雑感リポート書いてみました。また、写真はBMWの依頼でル・マン24時間レースのためアンディ・ウォホールが79年描いた作品です。ちなみに余談ですが、私もマツダの依頼で車に絵を描いたことがありますが、意外と作品として描くと、止まっていないで走る想定なものですから難しく大変でした。(笑)