威厳ある頑固な中年英国婦人役に、今トンプソン以上の適役はいない。そして子どもたちにそんな英国婦人のイメージを作り上げたのはメリー・ポピンズかもしれない。映画のポピンズは朗らかさもあるけれど、原作ではもっと不機嫌で手厳しい。本作は映画と原作の間を行き来しながら、原作者トラヴァース夫人がどのようにポピンズを作り上げたか、それをディズニーがどのように映画用に脚色していったか、二人の間のバトルと、その理由になったトラヴァース夫人のトラウマを解き明かす部分でできあがっている。 ポピンズは子どもたちの書いたこんなナニーにきてほしいという手紙を手にやってくるのでてっきり子どもたちを助けるために来たのだと、それはウォルトじゃなくても思うところ。が、そこにおそらく夫人自身も気がついていなった亡き父の人生へのトラウマがあることにウォルトが気づく。それによって映画「メリー・ポピンズ」が誕生し、トラウマから解放され、自分の創作意欲を再発見した夫人もポピンズを書き続けられた、とエピソードを重ねて描き出す。ドラマは娘と父の葛藤と、原作者と映画人たちのバトルで出来上がっているけれど、ここにミュージカル映画の傑作ソングである挿入曲の誕生などのエピソードを加えバック・ステージ物としても楽しめるように作られているのが楽しい。役者たちもいい芝居をしているのにオスカーに無視されたのは、ウォルト・ディズニーがユダヤ嫌いだったからだとはもっぱらの噂である。