映画『東京難民』を観て 旦 雄二(映画監督)つよく打ちのめされた。傑作である。これは、いまの東京、日本を生きる者にとって必見の問題作だろう。佐々部清監督は、この国が抱える のっぴきならない課題に真正面から挑み、それでいて、そうした場合にありがちな、主観的メッセージをただ一方的に押しつけるだけの生硬な悪しき「社会派」作品に堕することなく、映画を通じて提示されるさまざまな問題を観客一人ひとりがそれぞれなりに自分に引き寄せて自由に、かつ複眼的に考察できる余裕を充分に持った、しかも映画的興趣に富んだ一級の娯楽エンタテイメント作品として仕上げておられる。登場人物の一人ひとりが、それぞれの事情を存分に表出させ、生きて動いている。輝いている。それぞれ、そして全員で、映画に深い奥行きと大きな広がりを もたらしている。主人公やその仲間はもちろんのこと、カタキ役のはずのボス店長までもが、自らが置かれている現実の中で そのようにしか生きられない生をギリギリ生きている者として、愛おしくさえ見えてくる。それは、この映画が持つ、つよい説得力、訴求力によるものだろう。映画的ルックも じつに適確で申しぶんなく、作品世界に完璧にマッチしている。物語の着地がまた、そののちへの希望を孕んで、素晴らしい。主人公が最後に、ある人物と出会うのだが、だれが演じているのか しばらくは気づかないほどの、その演者の、役への見事な成り切りようと名演に支えられて、終幕にふさわしい、じつに味わい深い場面になっている。原作が存在することを、不勉強ながらエンド・ロールを拝見して初めて知ったが、このような、実現が難しい、しかし いま最も必要とされる題材を映画にしようとなさった皆さんに、心から敬意を表したい。http://tokyo-nanmin.com/