『とらわれて夏』by大和晶 残暑が肌にまといつくような夏の終り。アメリカ東部の小さな町の外れに建つ、草木に囲まれた古びた一軒家で綴られる、木曜日から祝日である月曜日までの5日間の物語である。事の始まりは、シングルマザーのアデルと13歳の息子ヘンリーが、月に1度の買い物のために出かけたスーパーでの、ある男との偶然の出会いだった。車に乗り込み家に連れて帰るよう母子に強要するその男フランクは、盲腸炎の手術後、刑務所の病院の窓から飛び降りた際に脚を怪我したと打ち明ける。さらに、脚が治るまで居させてくれれば危害は加えないし、いざとなったら人質に見せかけ隠匿の罪も着せないと約束。実際、脱獄犯と知って怯える母子へのフランクの物腰は、あくまで穏やかで、食事を作ったり、車を整備したり、傷んだ家を修理したりと、アデルのために甲斐甲斐しく働き、父親のいないヘンリーにキャッチボールを教えさえするのだ。 映画は、次第に惹かれ合っていくアデルとフランクの姿を、フランクを父のように慕うヘンリーの目を通し、丁寧かつセンシティヴに紡ぎ上げていく。とりわけ、3人の距離が一気に縮まるピーチパイ作りのシーン ...