仁科 秀昭(美術デザイナー)映画衣裳デザイナー・柳生悦子さん (その1)東宝撮影所時代、映画界の多くの素晴らしい先輩方と仕事ができて、大いに刺激を受けましたが、なかでも衣裳デザイナーで時代考証家である、柳生悦子さんからは多くのことを学びました。「日光江戸村」で「歴史の森」というプロジェクトがあり、敷地内の丘の上に日本の歴史上の人物を原寸大の彫刻で100体、再現しようという企画で、そのための彫刻デザインに1年余関わりました。その折に時代衣裳の監修で、柳生さんに、歴史的な装束の変遷などについて、ご教示いただきました。柳生氏はもともとは映画の美術助手をされていたのですが、やがて衣裳デザインの方で才能を発揮され、稲垣浩監督の『風林火山』などに就いて、監督から可愛がられたそうです。映画の仕事では、衣装ひとつ製作するにも時代考証をふまえる必要があり、なかば独学で調査能力を発揮されたともいえます。ここにあげたのは、私が展示設計した『河井継之助記念館』(福島県只見町)の時、当初、河井の生涯と戊辰戦争のジオラマを製作するという計画があり、その折に柳生さんに描いていただいたスケッチ群です。とりわけ柳生さんは、戦中派(昭和4年生れ)で海軍少女でもあり、軍服には造詣が深く、こうした絵にしても単なる衣裳デザインを越えて映画の場面をほうふつ出来る素晴らしいスケッチだと思います。こうした柳生さんの才能が多くの監督に愛された理由がわかります。