本国フランスはもとより、日本でも驚異の大ヒットを記録し、社会現象まで巻き起こした『アメリ』。その監督ジャン=ピエール・ジュネの最新作だ。主人公は10歳にして天才科学者のT.S.スピヴェット。彼は、自身が発明した磁気車輪が、栄えある科学賞に輝き、その授賞式に出席するために、たった独りでモンタナ州の牧場からワシントンD.C.まで、アメリカ大陸縦断の旅に出る。 冒頭、抜けるような青空と山々に囲まれた広々とした牧場風景に、これがジュネ・ワールド?と、一瞬戸惑いを覚える。だが、映画が進むにつれ、3Dの特性を最大限に活かし、徹底的にディテールにこだわりながら、それを丁寧に積み重ねていく特異な世界観は、まぎれもなくジュネ映画と納得。それに、考え方も生き方も100%カーボーイの父親に、昆虫の研究に人生を懸ける母親、アイドル志向の姉、父親が溺愛する肉体派の双子の弟という家族構成の中で、スピヴェットは浮いた存在。孤独を抱え、愛を切望し、その上、弟が銃の事故で亡くなってからは、決して弟の代わりになれない無力な自分に、罪悪感さえ感じている。小さな身体には荷が重すぎる様々な精神的負荷。そうしたスピヴェットのキャラクター性が、物語に陰影と深みを与えていることは確かだろう。 一方では、無賃乗車の旅の途中での屋台のホットドック初体験や、廃車で生活するユニークなおじさんなど、いろんな人々との出会いが活き活きと描かれ、思わず頬が緩むことも。そして、旅の終りの授賞式でのスピーチ。スピヴェットが明かす家族への想いが、観る者の心の琴線を激しく揺さぶることだろう。11月15日よりシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー2014年/フランス=カナダ合作映画/1時間45分監督・脚本:ジャン=ピエール・ジュネ原作:ライフ・ラーセン脚本:ギョーム・ローラン撮影:トーマス・ハードマイアー美術:アリーヌ・ボネット出演:カイル・キャトレット、ヘレナ・ボナム=カーター、ジュディ・デイヴィス、カラム・キース・レニー配給:ギャガ© ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO - GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA公式サイト:http://spivet.gaga.ne.jp/