ドイツ映画「暗い日曜日」(1999)2014年11月19日 名曲「暗い日曜日」はナチ・ドイツの侵攻のもとに生まれた?私の大好きな映画、「暗い日曜日」です。ある日、ブタペストにあるレストラン「サボー」に、一組の老夫婦がわざわざドイツから食事にやってくる。80歳の誕生日を祝うために…。老紳士は、このレストランの先代サボーと親しかったらしい。バイオリニストにチップをやり、例の曲を弾いてくれとリクエストする。 ピアニストが鍵盤を叩きはじめたとたんに、私はドンと胸を衝かれる。すぐにバイリオリンがメロディを奏ではじめるのだが、その時はもう遅い。画面が涙で曇って私には見えないのだっ!(笑) そう。あの名曲「暗い日曜日」。私、これ、もう堪らなく好きなんだよねえ…!ダミアの「暗い日曜日」があまりにも有名なので、「暗い日曜日」をフランス生まれのシャンソンだと思ってるひとがいるようだけど、ホントは違うのよ?1933年、ハンガリーで発表された歌で、作曲はシェレッシュ・レジェー、作詞はヤーヴォル・ラースロー。原題は「悲しい日曜日」。念のため…。 曲に浸っていた老紳士がピアノ上に飾られた写真に気づく。 とたんに彼はワナワナと震えはじめ、そのままバッタリと床に倒れ、あっけなく亡くなってしまう。私同様、感動の極みに達したのかな…?違う違う(笑)。 老紳士をもてなしていた支配人が叫ぶ。「あの曲のせいだ。のろわれた歌だ」 「愛のために書かれたのに、彼女のために、60年前に」。と、写真から60年前の彼女が現れる。そう、60年前に遡り、物語が始まるのだ。 彼女の名は、イロナ…。エリカ・マロジャーンという女優がやってるんだけど、これがまあほんとに素晴らしいんだよねえ!彼女のための映画と言っても過言じゃないかもよ。イロナは、サボー(ヨアヒム・クロール)のレストランで働いていた。二人は恋人同士でもあった。 ある日、サボーが、店のピアニストのオーディションを開くと、アラディ(ステファノ・ディオニジ)という青年が応募してきた。サボーはかれを雇った。 レストランには、魅力的なイロナに会いに来るお客も多かった。ドイツ人で実業家を目指すヴィークもそのひとりだ。かれは異様にしつこかった(笑)。イロナの誕生日。サボーは花かんざしをプレゼントした。金のないアラディは愛する彼女のためにつくった曲を贈った。そう、それが「暗い日曜日」だったんだよね。ヴィークは結婚を申し込んだが、フラれて川に飛び込み、サボーに救助され、翌日、ドイツへ帰国した。 その頃、イロナは、アラディのアパートで一夜を過ごしていた。以後、三人の三角関係が始まる。イロナはサボーと別れようとしなかったからだ。サボーも愛してるし、アラディも…。それがイロナの率直な気持ちだった。しかしサボーとアラディは戸惑い、苦しんだ。そんな二人を見ていてイロナもさすがに辛くなり、二人と別れようとしたが、二人は拒否した(笑)。サボーとアラディの間にも次第に、なんとも言えない奇妙な友情らしきものが芽生え始めた。かくて三角関係は…。 羨ましいような、羨ましくないような関係に…(笑)。店に来た音楽制作者たちが、「暗い日曜日」を気に入りレコーディングした。曲はまたたく間に世界中に流れはじめた。 だが一方で、この曲を耳にし、自死するひとたちが現れはじめた…! アラディは自分の曲でといたたまれなくなり、自殺しようかと思ったが、イロナとサボーが思いとどまらせた。この頃、ハンガリーには黒い雲が漂いはじめていた。国連を脱退し、枢軸国となっていたのだ。というと聞こえはいいが、実質的にはナチドイツの占領国のようなもの…? ある日、突然、あのヴィークが店にやってきた、ナチドイツ軍の隊長として…。サボーもイロナも心臓が凍りつく思いだった。サボーはじつはユダヤ人で、ナチはユダヤ人たちを収容所送りするという噂がひそかに広まっていたからだ。イロナをヴィークを頼り、サボーの身の安全を図ろうとした。 ある日、ヴィークが仲間を連れて食事に来た。そしてアラディに「暗い日曜日」のリクエストをしたが、アラディは弾こうとしなかった。 イロナはアラディの危機を救おうと、ピアノのそばに立ち、アラディがつけた歌詞を歌い始めた、「私のために弾いて」と言って…。アラディはイロナの歌に合わせてピアノを弾いた。 「暗い日曜日」は、ここまで事あるたびに流れるんだけど、歌詞が歌われるのはここがはじめてなんだよね。思わず泣いちゃった…。歌い終わるとイロナは奥へ行き、吐いた。 その間、アラディはヴィークに銃を借りると、こめかみを撃ち、自殺した…!「暗い日曜日」を作曲した現実のシェレッシュ・レジェーも自殺しているが、この映画ではその理由をここでみるように、ナチドイツへの「抗議」として描いている。 身の危機を感じたサボーは、自分の身の安全を図ってくれないかとヴィークに頼む。ヴィークは代わりに、金をもったユダヤ人たちを紹介しろ、かれらを中立国に脱出させると条件を出す。サボーはユダヤ人たちを紹介し、ヴィークは私服を肥やす。戦後、ヴィークは、ユダヤ人1000人を救った人物として国民に評価されるのだが、実際、ヴィークのような将校がモデルとしていたのかもね。 だがサボーのほうはナチに捕まった! イロナがサボーを解放してくれるように頼むと、ヴィークはからだを要求し、かねてからの思いを遂げる。 が、ヴィークにサボーを救出する気はなく、サボーは強制収容所へと送られた。 数ヵ月後、イロナはアラディの墓前へ行き、サボーが収容所で死んだことを…、殺されたことを報告した。彼女のお腹は大きく膨らんでいた。 そして再び、老紳士が死んで病院へ搬送された場面に戻る。レストランの現在の支配人は、じつは、あの時イロナのお腹にいた子供だったことがわかる。そう、サボーの子なのだ…!かれは店内に戻るとシャンペンを抜き、厨房へ入る。 老いた女が「暗い日曜日」を口ずさみながら、花かんざしと、小さな小瓶を洗っている。かんざしはサボーが誕生日にイロナにプレゼントしたものであり、小瓶は、アラディの遺品である。 そう、この老女はイロナなのだ。もちろん死んだ老紳士は、あのナチ将校のヴィークだった。かれらは「暗い日曜日」で、ようやく積年の恨みを晴らしたことになる。 イロナの息子は母にシャンペンを渡し、言った。「誕生日、おめでとう」…。 「暗い日曜日」は「自殺ソング」として知られるが、そんなことないよね。歌詞はたしかに暗い日曜日に、女が亡くなった恋人を想い嘆き、自殺を決意するという一節で終わるけど、曲の哀しさと美しさは、むしろ生きるチカラを与えてくれない?私はそんなふうに聞いてきたけどなあ…(笑)。 念のために言っておくと、「暗い日曜日」を聞いて自殺した人間は、世評とはうらはらにわずか数人らしいんだよね。 この映画、すこし話が甘いかなと思わないでもないけど、大好きなその「暗い日曜日」がもうたっぷりたっぷり聞けて、私ゃもう大満足だよ…! 4人の俳優…、エリカ・マロジャーン(イロナ)、ステファノ・ディオニジ(アラディ)、ヨアヒム・クロール(サボー)、ベン・ベッカー(ヴィーク)も素晴らしいおとなの芝居をしてくれるので超必見だよ…! ■115分 ドイツ/ハンガリー ドラマ/ロマンス監督:ロルフ・シューベル脚本:ロルフ・シューベル撮影:エドヴァルド・クオシンスキ出演エリカ・マロジャーン イロナ・ヴァルナイステファノ・ディオニジ アンドラーシュ・アラディヨアヒム・クロール ラズロ・サボーベン・ベッカー ハンス・ヴィーク 自らの死をモチーフにした陰鬱な歌詞と美しく悲痛なメロディが印象的なシャンソンの名曲『暗い日曜日』。1930年代、なぜかこの曲を聴きながら自殺する者が続出し、実際に各国で発禁処分となった。その逸話を基に、第2次大戦下のハンガリーを舞台に2人の男とひとりの女の激しくも切ない愛を描いたラブ・ストーリー。第2次大戦直前のハンガリー・ブダペスト。ユダヤ人のラズロは恋人のイロナとともにレストランをオープンした。2人はオープンに合わせてピアニストのアンドラーシュを雇い入れる。ほどなく、イロナとアンドラーシュは互いに愛し合うようになる。しかし、イロナはラズロとも関係を続ける。3人は愛を共有し合うようになり、危ういながらも微妙なバランスを保っていた。やがて、アンドラーシュがイロナに捧げた曲『暗い日曜日』が思わぬ大ヒットとなる。が、この曲が自殺を誘発すると問題に。さらにドイツがハンガリーに侵攻、3人の運命の歯車も狂い始める……。