苦手な事に直面したり、苦しい状況に陥ったりと、人生には沢山の困難が待ち構えています。ついつい弱気になって「自分には無理かも」と、自信を失いかけた時、私は、「もしこれが映画のワンシーンだったら…」と思うようにしています。「次か、その次のシーン、少なくともラストにはなんとかなっているはず」と、気が楽になるからです。今週ご紹介する作品は『マダム・イン・ニューヨーク』『チョコレートドーナツ』。この2つの物語の主人公たちも、様々な困難に立ち向かいます。『マダム・イン・ニューヨーク』の主人公・シャシは、ごく普通の主婦。料理上手で、贈答用のお菓子“ラドゥ”を販売するほどの腕の持ち主です。そんな彼女には家族の中で自分だけ英語ができないという悩みがありました。家族には馬鹿にされ、一人訪れたNYでは、意地悪なカフェの店員にまくし立てられおどおど。さらに自信を失くし、沈んでしまうのです。主人公のシャシはガウリ・シンデー監督の母親がモデルになっているのだそうです。彼女の母親もピクルスを販売するほど料理上手なのに、英会話が苦手で自分を卑下する傾向があったのだとか。インドでは英語が準公用語。だから英会話ができなければ、劣等感を抱き、自信を失ってしまうのも当然です。しかし、落ち込むだけで終わらないのがシャシの凄いところ!彼女は自ら行動し、自信を取り戻してゆくのです。ラストのスピーチでは、英語力のみならず、心の成長までも感じられます。一方『チョコレートドーナツ』は、1970年代のアメリカであった実話に基づいた物語です。ルディとポールはゲイのカップル。ひっそりと愛を育んでいました。ある日、二人は薬物依存の母に育児放棄されたダウン症の少年・マルコと出会い、一緒に暮らし始めます。徐々にマルコに笑顔が戻り、絆の深まる3人はまるで家族のよう。誰が見ても「幸せ」なのに、ルディとポールがゲイだというだけで、彼らは引き離されてしまうのです。この物語の舞台は1979年カリフォルニア。その前年1978年には、自らゲイであることを公言し、サンフランシスコの市議会議員に当選したハーヴェイ・ミルクが暗殺されています。そんな時代だから、同姓婚が認められることも、その2人が養子を儲けることも許されなかったのです。しかし、差別を受けながらも、彼らは堂々と戦いました。マルコを守りたい、家族になりたい一心で…。<Any Day Now(今すぐにでも)>――『チョコレートドーナツ』の原題であり、劇中でルディが歌うボブ・ディランの名曲「I Shall Be Released」の歌詞に出てくるフレーズです。悲しい現実から、きっともうすぐ解放されるはずなんだ…という彼らの心の叫びと重なり、強く心に響きます。ルディを演じたアラン・カミングは、実際にバイセクシャルだとカミングアウトし、同姓婚をしています。70年代では叶わなかったその夢が、現代では叶っているのです。今すぐに英語が話せたり、全く偏見のない世の中に変わったり…なんてことは難しいことです。だけど、何もしなければ、何も変わらないという事だけは、どんな事に対しても言えること。「いつの日か、きっと…」と希望を抱き、未だ見ぬ明日へと前に進むこの2つの物語の主人公たちは、少しずつだけど、確実に自分自身や、周りの人たち、そして世界を変えたのです。その姿は、前に進めずくすぶっている私たちの背中を押してくれるでしょう。「きっと大丈夫。人生の主人公は、あなたなのだから」と。(もっさ)早稲田松竹http://www.wasedashochiku.co.jp/lineup/2015/chocolate.html